2002年8月 秀行はフワフワしている
つみれちゃんは2歳10か月の女の子。その年齢にしてはたぶん
大きな子で、人見知りをしなかった。
「いま内線で受付に電話したら、お母さんがつみれちゃんを
この部屋まで迎えに来てくれるって。つみれちゃん良かったねー、
お母さん来てくれるよ」
つきこさんが何だか色々やってくれた。つみれちゃんはくつろいでいる。
知神【ニータン】の横で、折り紙を揉んでいる。もんでいるのだ。
「あー、僕がバカでした。すぐ電話することに気づけばよかった」
知神君がバカだなんてありえない。僕と隆君も考えつかなかったよ。
「本当にお世話になりました。家は商売をやっているので
遊んであげられないことも多いんです。素敵な人についていくんですよ。
海音は面食いなのよね。何か皆さんキラキラしてるし」
隆君は「うみね」ちゃんの母親へブツブツ文句を言っていた。
(当然、いなくなってからだよ)
攫われたらどうするんだとか、車にひかれていたかもしれないとか、
知神の貸出賃はとても高いんだとか。知神君がいなかったらもしかして
危なかったかもしれないとは、僕も思った。
もしかしなくても小さな子を放っておくのはやめてほしい。
でも1日だけの客が何か言える立場でもなく、旅館の子だから何か対策が
あるのかもしれないし。結局は何も言えなかった。
今日はたまたまかもしれないが無事だったのだから。
大人同士何も言わないことになった。
視点を変えてみれば、僕達が誘拐犯と思われる可能性もある。
だから部屋のドアは開けっ放しにしていたのだ。
つきこさんは乳酸菌飲料と折り紙をビニール袋に入れて
【うみね】ちゃんに渡した。つきこさんは海音ちゃんを見送った後
「2歳の子が食べていいお菓子なんてわからないけれどわたし達が
持って来たものの中にはなかったね。残念」と言った。
チョコは四角く固めの、ナッツやキャラメルやヌガーまみれ。
お茶はハーブティーや、乾燥苺を入れた紅茶。
そば粉の入ったクッキーに、白桃やミカンのゼリー。スナック菓子。
僕はブランデーケーキを持って来た。悪魔の様に高いお酒のだ。
作ってみたのだ。お酒の出所は隆君なのだが。
連携プレーで冷蔵庫にお菓子類を隠していたつきこさんと隆君。
は【仲良しに見えた】。冷蔵庫の方角に僕がいれば良かったな。
【仲良しに見えた】位だと、僕はもう焼きもちを焼かない。
【つきこさんを見て笑顔になった人の顔】位で胸に炎をためていたら
僕の身は来年あたり焼き尽くされてしまう。
知神君が「アレルギーがなくてものどに詰まったりするし、家での
お菓子の時間や決まりもわからないし。麦茶より水の方が良かったかな、
でも、うみねちゃんは麦茶選んだし飲みなれていた」
とつぶやく。そう、知らない子でも気にかけている知神君。
知神君はいい意味で優柔不断だ。だがこの場合基本は初めて会った
知らない子【うみねちゃん】なのだ。そう考えると優しいのだ。
坂の下のスーパーから、幼い子どもに気を配りながら、つかず離れず
見守りながら無事に旅館に(うみねちゃんの家なんだけれど)連れて
帰って来た。知神君なら反対方向でも連れて行ってあげたと思う。
「オニータン、パッパ、モネーサン」うみねちゃんはそう言って
右の手首を左右に回す様な仕草をして(バイバイだ)お母さんと
僕達のいる、部屋のドアから出て行った。
「知神君、つみれちゃんじゃなかったじゃないか」
隆君がそう言い出した。たぶん言うと思っていた。
続く