つきこさんと16歳年上の僕2002の4番目

佐粧隆。知神翼。器用な男達だ。互いに互いの声真似をする。

(なんか妖怪鳥の紹介みたいだが、2人共、人間のミュージシャン)


「僕はRosskastanie社の隆君の直通番号で、知神君がこの家の電話に

【知神翼です。秀行さんお願いします】ってかけて来たときにアレ?って

なったことがあるよ。一瞬、隆君のいたずらだと思ったことがある」


「あれ?何でよ。ちーちゃんは正直に知神ですって言っているのに。

しかも何で僕が、僕のデスクからいたずら電話するんだよ」

いたずら電話は佐粧隆はしない。嫌がらせ電話の様なのは、たまに。


「隆君の声にそっくりなのに知神君の雰囲気があった。やっぱり

知神君なのはわかった。だけど、表示された電話番号が【佐粧隆】だ。

少し混乱したよ。隆君の新しい特技だと思ったんだ」


「前はそういうのやれたんだよ。秀行君の声って僕の声と似ているよ。

ただねたぶん声が似ていても似せるのは難しい。話し方はそれぞれ全く違うし

僕が秀行君を真似するとしたら、情熱をもって学習しないといけないと思う。

姫を簡単に騙せるくらいじゃないと、素敵な声真似とは言えない」


「忙しいのに変な学習に時間裂かないでよ。僕の声真似するなんてやめて」


「知神が僕の声を真似するのはわかる。だって、僕は僕の声を真似できないもん。

だから秀行君は僕が担当しよう」


「和菓子店の職人の声真似なんて、商店街の中でだって恐らくお蕎麦屋さん

くらいにしかわからないよ。【ミュージシャンの特技披露しますテレビ】

にも出られないんじゃないかと思うけれど」

僕と仲良しのお蕎麦屋さんならば、僕の声真似でもわかるかもしれない。


「素敵な物は胸の中にしまっておく。知らない人には披露したりしない。

楽しいなあ。お蕎麦屋さんに秀行君の声だと思われたら、出前頼むときの

電話が楽しくなるねえ。近未来を想像して少しワクワクしちゃった」

近未来に向けて有名人でもない人間の声真似練習ですか。暇もないのに。


ピンポーン


「知神さんこんばんは」

つきこさんが知神君の両手の荷物を受け取りに行った。

左肩に子供が入って遊べそうな大きなバッグだ。黒くてたくさん入るやつ。

(子供には危険。呼吸が出来なくなりそうだ。ファスナーを閉めたら大変!

ここに子供はいないので、杞憂以前の問題かな?)


バッグの他には右手にピザが5箱。何でも宅配のよりも少し小さめらしく

多めに買ってきてくれたみたいだ。


「ちーちゃん、油揚げ美味しいから早くもらって食べなさい」

隆君は美味しいものは声をかけてでも食べさせたいと思う人だが

玄関にいる知神君に【油揚げ】食べろとは。


知神君は狐ではない。

油揚げの状態のまま隆君に出したわけでもないのだけれど。


つきこさんが煮た油揚げはふっくらしていた。隆君は油揚げ1枚分を食べて

お菓子も食べた。僕が作ったわらび餅。店で販売している物だ。


「いただきます。つきちゃんそのバッグは炭酸飲料。冷えているよ」


「うわーいっぱい。あれ?このバッグ、カットウィッグかと思った」


「髪の毛つき人形の頭は、まだ車に置いてあるから後で取りに行くね」


麦茶しかないと思われたのかな。

今日はコーラとジンジャーエールが冷蔵庫にある。

だが、知神君は親切だ。帰る時にいつも何か持たせたくなる。

息子にしては6歳下と言う年齢は大きすぎるけれど、まあそんな感じ。


つきこさんと僕の家は、実家的な雰囲気の様だ。

自画自賛とか勝手な思い込みではないようだ。以前、知神君と隆君に

言われたことがあるのだ。


僕がちょっとお節介だからなのかもしれない。