B.   ROSSKASTANIE社のAdalheidisの部屋に2人

1998年4月15日(水)知神翼と末竹七五三次


どうして休みなのにここに来てしまうのか


さっきからなぜか2人、仕事の話をしている。昔も含めて。



「昔、ぼくがいた会社は早番と遅番があっただけ。8時半に出るのが

早番。寮から歩いて10分で仕事場だから疲れたりはしなかったな。

午後5時半には帰れたよ。遅番は色々あって帰るのが9時過ぎるけれど、

朝は少し遅く出られるから遅番って考えてたよ」


「知神君は人がいいから早番で出て、遅番で帰ったでしょ?」


バレてる。人が足りないままは仕事が大変になるから。風邪ひく人や

体調崩す人が冬には多かった気がする。あとは結婚した人も多かった。


「たまにはね。お休みの人がいると何となくぼくが代わった」


末竹君はやっぱりと言う顔をする。


「体力があるって思われていたんだ。実際風邪ひかなかったし」


ぼくは何も言えなかった、後ろから見ると【のんきなゴリラ】だ、なんて

整備士の時には言われていた。そこまで体格がよかったとは思わない。

それに、ぼくは、のんきでもないんだ。


「僕は夜じゅう起きていて、朝が来たら眠るのはここが初だった」


「そんな仕事あったっけ?」


Adalheidisの仕事にはなかったと思う。少なくとも僕には。


「映画のはじっこに出た時、ちょっとあった。主役が2時間以上

遅れて入って来て、僕はその俳優さんと10分話をするシーンがあって。

夜中なのにって思ったけれど、スタッフの人達はもう大変で。

僕なんかが間違えたらダメなんだもん」


末竹君の演技はとても良かった。某誌主催のミュージシャンが選ぶ

「見たい映画」賞など、たくさん取った。


僕が見たところ、バンドの発生と解散の映画に見えた。

架空のバンドの「裕福な」リーダーを演じた末竹君だが

彼の孤独は相当なもので(演技)もらい泣きした。


「真夜中だったんだね。ぼくはジーンとなった」


「うん。恥ずかしいからもう忘れたいよ。あ、そうだ。

仕事じゃないんだけど、佐粧さんと2人でテレビに出た時に、

温泉旅館に泊めてもらったんだ。同じ部屋ですごく緊張して

一睡も出来なかった。落ち着かなくて、ものすごく辛かった。

正確にはずっと働いていたわけじゃないけど。きょおの佐粧さんと

初めて仕事してさ、あれにも実は、ひーってなった」


佐粧さんと2人。2人だけは怖い。胸の激しい鼓動は周りに聞こえそう。


「それはぼくも怖い。佐粧さんは怖くなくてむしろ優しい。でも怖い。

2人だけの仕事は緊張のみ。末竹君はやっぱり度胸がある」


「愛嬌があるよりは度胸があるって言われた方が嬉しいもんだね」


「そうかな。ぼくが言っても何の得にもならないだろうけれど」


「言われたら嬉しくないの?例えば【知神君頭よさそう】とか」


「アハハハハ。良さそうに見えるだけでも嬉しいな」


「ごめん、間違えた【知神君、頭いい】とか」


「その人を信用できるかによるよ。末竹君は信じる」


「じゃあ僕が今後も知神君を褒めてあげるね、あ、内線だ。僕出る」



社長執務室から・佐粧隆(いつもだとAdalheidisリーダー)


「ちょっと、もうお昼だよ。休日なのに何で2人共ゆっくりと

家で眠ったり、お洗濯したり、買い出しとか行かないんだよ」


「冷凍もあるし、あんまり買うと家で食べない日もあるから

無駄になる。買い物は大丈夫。僕達はここにいたらダメなの?」


「かまわないけど、昼食のことだよ、今日はどうするの?」


僕達2人がここにいるのは把握されているとは思っていたけれど。

【社長の佐粧さん】からだと思うと、ぼくは緊張が始まる。