4月15日(水)おはようつきこさん

1998年4月15日(水)僕は休み


昨日はつきこさん大変だったと思う。でも朝ご飯はいつもの様に

作ってくれた。僕はつきこさんの好きな夕食を作って待とう。



「昨日の記憶があまりない。秀行さんどうしよう」


つきこさんは温かい紅茶に牛乳を入れて、お砂糖を少し入れ

トーストにオレンジジャム塗って食べながら僕に言う。


僕は休みだからつきこさんが家を出るまでべったりと側にいる。


パジャマではなく、僕はちゃんとシャツを着て、肘まくり姿。

つきこさんは肘まくり(肘まで長袖シャツをまくるの意味)の僕が

好きだから。視線を感じて嬉しいが変態ではない。


つきこさんじゃなければ、パジャマのままだよ。


「昨日はね、イサさんが来なかった。稽古初日だからギターは

4人で弾きたいと言われて、つきこさんにベースをお願いしたんだ」


「そこらへんは覚えているけれど、その先が何とも言えないの。

ベース抱えてベースの知神先生に色々教わって、皆さまと練習

始まった時からは、さて?良かったのか悪かったのか。自分で

判定できなくて。もう取り戻せない時間だけれど」


「うん。何も心配しないで。頑張っていたし上手だと思った」


「秀行さんの言うことは信じる。でも今回はあやしいな」


何も問題はなかった。嘘つくのが下手な隆君が褒めていたのだ。


隆君は耳障りな音は排除しようとする。【ど下手でもガッツがある】

人より、つまらなくても【正しい方向に行く音】を出す人を選ぶ。

正しい音が出せれば広い世界に連れて行けると言う。物語みたい。

ただし、オーディションやスカウトの時は違う。


実は僕と隆君はギター抱えてブツブツブツブツ言い合っていた。

もちろん僕は納得したら見事に引っ込む。引っ込むのが多い。


隆君には【秀行君は面白くなった、進化している】と言われる。

隆君は楽しそう。僕は考えすぎず思っていることを言う方がいいと

わかる。そんな僕達を見て、末竹君と知神君が嬉しそうに静かに

しているけれど、僕がへこんじゃう方が(嫌ではない)多いよ。


末竹君も知神君も、自分たちのリーダーが誇らしいんだね。



今年28歳になるつきこさんが、小1位の時から、佐粧隆は

あの世界で生きている。そして美しく生き残っている。


「眠くって半分寝ていたかもしれない。変だったかも」


つきこさんが心配しているけれど【変】なことはなかった。


「変じゃなかったよ、僕が隆君に教えてもらっていた時間かな、

ソファに静かに座っていたように見えたよ」


隆君は菓子パンて言っていたけれど、あれって末竹君と知神君が

焼いたパンだった。リンゴの甘く煮たのをいれたアップルパン。

オレンジが入っている爽やかなパン、ドライフルーツ入りのパン、

白い干しぶどう50%超えの、甘みのある食パン。


イサさんの好きなブラウニーもあった。2人共、競うようにパンを

焼いているみたい。とても上手で美味しい。暇はないと思うから

パン窯のある隆君の家に休み前に泊まり込みなんだろう。


Adalheidisは飛び回っている。僕には身近に感じられるけれど

つきこさんの反応の方が正しい。毎回ドキドキするとか緊張しても

おかしくはない。あの人達は、会いたいと思ったからって

普通は会えるわけではない人達なのだから。


つきこさんは隆君一味の都内専属ヘアメイク「も」しているのに

仕事じゃない時はビックリしちゃうみたいだ。

稽古場では違って見えるのかな。


「つきこさん、会社まで送るよ。昨日は無理させちゃったし」


「ううん、大きい人達の中に入る時が急にきたらどうなるかが

わかったからもう平気よ。秀行さん、わたしのソーセージ

良かったら食べて。手を付けていないから」


「もう1枚トースト焼いてのせて食べるね」


つきこさんは【いってきます】をして家を出た。


「知らない人にも、知っている人にもついていっちゃだめだよ」


隆君でも、末竹君でも、知神君でもダメだよ。