1997年3月4日(火)つきこさんは声を出さない。
ローズマリーホールで【KYOのひなまつり】がある。
ナルツイッセのギターとドラムが佐粧隆(KYO)を
助けてくれる。僕は1日だけ参加。
もともとナルツイッセは5人組のバンドだった。
理由があって女子2人がほぼ同時に抜けた。
そこにROSSKASTANIE寮生だったギターのガリが加入。
4人の男性バンドとして再出発。
僕も新結成時、少しだけ一緒に遊んだ記憶はある。
https://tukihidetaka.iiblog.jp/article/494420158.html
今は皆、25歳から27歳か。
「ガリ君、マンゴー君、その前にこの人は誰だ?」
佐粧隆が僕の隣に来る。指はささないが段ボールで僕に
触れる。手よりはいいけどさ。
「おかしいと思いました。ハーディーがいたとは。
音が1つ多いんだもの。あれー、何で僕は気が付かなかった
んだろう。末竹先輩と知神先輩のほうばっかり見てた」
側だしね。見たいよね、2人の演奏。
「佐粧社長の方見るの怖いから。横にハーディーが
いるなんて思わなかったし」
隆君て、若い人には怖く見えるのかな?
「怖いの?僕が?ガリ君もマンゴー君も、今は実家に
住んでいるんだよね?家族がすごく優しいのかな?」
「お給料頂くようになって、恐ろしくなりました。
素足にサンダルでアイス買いに行こうとしたら、母が
靴下と革靴、ジャケットを投げつけて来たり。痛いよ」
ガリ君の家は人目があるから服装を整えろっていう意味か。
ナルツイッセはもう、テレビにも出ちゃったしね。
マンゴー君はなんかスゴイ。
「僕は父親に、野菜を食べろって叱られます。家では
サラダに、野菜だけの煮物、スパゲティミートソースも
トマトと玉ねぎの中に粒の様なひき肉が。肉が食いたい、
そういうときには、卵焼き少しとか枝豆くれますけど」
それでパワフルなドラムス。僕なら電気ピアノも無理。
「たまに昼ご飯には、牛丼やハンバーガー食べますし
お弁当の鮭とか、かまぼこ、湯葉は、嬉しいですね。
でも昼飯リストを、適度に守らないと母弁当になっちゃう」
26歳が親の言いつけを守っているほうが不思議な気がする。
「マンゴー君(ドラムス)は吹き出物できやすいの?
赤いポツポツは一切ないけれど」
隆君はお菓子をたっぷり食べるのに、虫歯も吹き出物も
ないのだ。遺伝ならば超のつくほどいいものもらったよね。
「高校の頃、食堂で肉が入ったものだけ食べて、後輩が
差し入れにくれたケーキとか、家庭科部の子の作った
揚げたてパンやドーナツ食べていたら大変なことに。
自分の食欲が強かっただけで、後輩は悪くないんですが」
「ねえねえ、大変なことってどんな?」
こう聞くのは社長の執務室以外ずっと同じみたいだ。
「顔がうす赤くなって、場所で言うと顎髭の位置に大きな
ニキビがたくさん出来て、痛かったんです。首もザラザラ。
あの後、こういうことも僕には起こるんだって思ったら
なんとなく焼肉は3切れでいいや、ってなったし。大丈夫かも
しれないけれど、甘いものは控えてますね」
隆君はうーんと頭を捻った。
「可愛い女子にモテてたんでしょ?差し入れとか
家庭科部とか、安全な食べ物っぽいけれどね」
「ケーキは人気のケーキ店の家の子の差し入れでした。
あの頃ならお土産にしたら、喜ばれるような。家庭科部の
調理したものも、クオリティは高くて、教師はおやつに
買っていました。それは何かの募金になっていたみたいです。
ただ、僕達4人男子校ですから。なんだかね、感謝はあっても
ワクワクドキドキとかは全くないんですよ」
ありがとうとは思うけれど、やっぱりワクワクしたり
しないんだね。男子校は怖いイメージだったのが多少
変わった。僕も家庭科部とか今なら楽しそうと思う。
「そうだった。ナルツイッセは3人共小学校か中学から
同じ男子校だった。あれ?後から加入したガリ君も
中学から私立の男子校だったね」
「偶然同じ学校でした。控室で学校の話を聞いていて
【あー、こういう話は同じ学校じゃないとな】なんて
聞くだけ聞いていたら、校舎の雰囲気、食堂、名物教師
が同じで、うわああああってなって。僕は北校舎で
3人は南校舎でした。おかげさまですんなり溶け込めて」
隆君が編成のとき、4人を一緒にしたに違いないと思う。
「で、何で僕が怖いの?」
「色が白くて、汚いひげもないし。でも剃刀負けとか
ないでしょう?すごく忙しい方なのに、吹き出物も
肌荒れもないから、恥ずかしくなるから見られない」
「僕達は不思議に思っていて。ミステリーというのか」
隆君は肌のお手入れ講座は出来ないよ。
石鹸で洗って、安いクリームを小指の先位、つけてた。
しかも寝る前だけ。真面目に聞く人はいないな。
隆君も20年後には変わっているよ。いくら何でも。