1997年3月4日(火)助手席で眠って行けばいい。帰りも。
僕の休日が水曜日(和菓子店)なので隆君は
練習の日を「火曜の夜」にしてくれた。
次の日ゆっくり休めということだろう。
だけど。
「今度はねー、姫にベースで参加してほしいの」
電話はスピーカーだから内容はつきこさんに聞こえて
いる。きゃああー、いやあああああー、と叫んで
走り回っている。そりゃそうだろう。
ツアー以外参加しないイサさんはベース歴20年以上。
勘のいい知神君は、ギタリストなのに1年で人に
教えられるレベルに。ベースからギターに変わった人は
いるらしいけど、知神君は両立。楽器を持ちかえると
すぐにどっちも出来る。
大体、佐粧隆だってギタリストなのかベーシストなのか
よくわからない。マリイザのギタリスト20にもベーシスト
20にも入っているんだから強い。
隆君はつきこさんの誕生日に、まるで出版できそうな
「ベース」という、お役立ちノートをくれた。貴重品だ。
僕も見た目は似たようなものをプレゼントしたが
佐粧隆みたいに有名人が書いたわけではないので
ボロボロになるまで参考にしてもらえたらいいな。
(ちょっとだけ、僕も両方できるアピール)
そう思っていたらどっちがどっちかわからない様、
綺麗な花柄のカバーを両方にかけたつきこさん。
(昔、つきこさんは貸した本が汚れて返ってきたとき、
その女子の人格を疑ったらしい。貸したのと違う汚い本が
返ってきたとかで、泣いた過去もあるとか。中学生の時。
物に対する感覚が人によって大きく違う、違いすぎる
時期だったんじゃないかな。実は似たようなことで僕も
泣いていた。中学生の時だった。僕達は似ている)
「ねえ、姫は気にしないで間違っていいの。ただね、
音がする中でギター弾きたいから、いてくれたら
いいんだってば。僕も知神も交代でベースをやって
ギター弾きたくて困ってるの」
「なんでKYOがベース弾くんだよ?」
「でしょう?僕も何か自分でもおかしいなって思う」
つきこさんを連れて行った。
だって1人にしておくのかわいそうだし、僕も
姿が見えないとつまらないからね。
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稽古場にはナルツイッセのギター、『ガリ』と
ドラムスのマンゴーがいた。つきこさんと同じ位の
年齢だ。25歳から27歳位の男性。
僕がすぐ他人の年齢を(脳内だけで、が主だが)気に
するのはつきこさんに対して、僕がスケベオオヤジに
見えたりすると困るから。誰が困るって?僕がだよ。
今回の場合は、ナルツイッセは僕等のことを知らないと
思うので、それはそれでいいんだけれど。外に一歩出たら
つきこさんも僕もべたべたしないし。
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「はい、今日はこれで終了です。お疲れ様でした」
隆君の稽古は2時間で4時間の疲れが出る。
「知神先生、マグカップどこですか?」
「末竹先生、何飲みますか?」
「やだやだ。知神君は先生でいいけれど、僕は違うよ。
末竹君とかしめじ君とか、適当に言って。なんだか
お年寄りになった気がするんだもん」
「ぼくも。今なにも教えていないし。助けてもらって
いるから知神君でいいよー」
知神君はナルツイッセが男性だけのバンドになる時に
4人と一緒に練習していた(隆君に頼まれて)事がある。
頑張ってやっているナルツイッセ。近年で1番良いバンド。
でも、誰が考えても社長の佐粧隆と同じバンドの人は
怖いと思っちゃうんじゃないかな。大先輩というのか。
しめじ君なんてよべないって。
「あー、そこの端っこにいたベースの人はもしや女性?」
ナルツイッセからの助っ人、ギターのガリが聞く。
隆君がギターのガリのお尻を細長く折った段ボールで
ポン、じゃなくて、バシッと叩いた。
大して痛くはないと思うがビックリはしただろう。
つきこさんは下を向いて歯を見せないで笑っている。