続・97年1月・スタジオで起きた出来事

1997年1月14日(火)KYOの収録で。


食卓の上には適当に色々並べたので、自分で

取り分けて食べてもらった。ご馳走に見えた。



KYO:佐粧隆のいくつかある名前の1つ。歌う人。


末竹君、知神君:2人は佐粧隆の別のバンドでも活躍。


つきこさん:僕の。KYOの「都内専属」ヘア&メイク

会社は小さな某化粧品会社だが、出張部門がある。


僕:徳浜秀行。和菓子職人で、音楽名はHardy。

いつの間にか作詞作曲、ギタリストな時がある。


隆君が年1回位かかる恋の病気というのは嘘っぽい。

隆君が風呂に入っている間、末竹君と知神君を

防音室(広めの洗濯室なのだが)に呼んだ。


「去年だったかな、隆君は泣いたりしなかった。

SIGMAスタジオって妖怪でも出るの?」


「あー、やっぱりHardyは気が付いていたんだ。

実は台所にいるつきこちゃんも知っていてね、でも

黙っていたんだよ。お腹が膨れないか僕、心配」


末竹君、何か知っているんだ。



「はっきり言って、代役で歌っていた人の歌は

KYOにはどうでも良くて、ディレクターに聞いた

彼女の好みの男性も「恋」の話に信ぴょう性を

持たせるために、とってつけたようなものですね」


知神君もそこまで言う。


「理由が他にあるんだ?」


「ぼくはHardyに伝えたい。あの人があんなに脆くて

繊細になってしまうなんて、思っても見なくて」


「僕も知っていてもらえば何かの時に便利だし、

Hardyも人にベラベラしゃべらないもん」


僕は恐ろしい秘密とかは聞きたくないんだけれど。


「理由はリハーサルの時に、歌詞を間違えたんです。

佐粧隆として許せなかったんでしょう。本番では

しっかり歌っていたので立ち直ったと思います。でも

ぼくはポロポロ涙をこぼす佐粧リーダー、じゃなくて

今日は、KYOだったけれど、初めて見ました」


SIGMAスタジオはしっかりとしたリハーサルがあって

衣装もヘアメイクも本番と同じで、いい映像が取れる

らしい。ランスルーなのかな?


「隆君はプライドが高いから、自分に傷ついたのかも。

歌詞の間違いは本番ではなおってたのに、泣きたい程

恥ずかしかったのかもしれないね」



「別に僕は、僕に怒りっぽくなるとかイライラするとか

そういうのはないから、誇り高い人でいいよ」


「ぼくも力になりたいけれど何もできないし。

理由がわかっていれば泣かれても怖くはないです」


KYO。佐粧隆。


隆君は「恋の病気になった」と思われて泣くよりも

「歌詞を間違えて」泣くほうが恥ずかしいんだ。



僕達はサッと話をした後、食卓に戻った。


隆君が10分後に風呂から出てきた。

自分のお洒落パジャマに着替えて、温かそうだ。


「ひーめ、姫。一緒に入ろうって言ったのにー」


バコン。


末竹君がどこからか薄い段ボールをたたんだ物を

出してきて、隆君の頭を叩いた。


「いったああああああい。とにかくコーヒー牛乳に

お砂糖入れたやつが飲みたいのー」


コーヒー?午後9時だよ?


「はい、作りますね」


つきこさんはメモを渡して来た。

「佐粧さんが、こっちに来ないようにしてね」


濃い麦茶に牛乳とお砂糖を入れてかき混ぜたものを

作ったつきこさん。まあ外で買うと麦芽飲料って

大きく書いてある物もあるし。



末竹君と知神君も湯船につかりたいと、2人で

お風呂に入った。僕の家の風呂は他家よりも少々

大きいかもしれない。


隆君の興奮が静まる様に、僕はたつのこたろうで

今におびき寄せた。そこにコーヒー牛乳?到着。


いつもなら味がわかるはずなのに、

「何でお魚3匹食べたら罰が当たるの?」と

幼稚園の子みたいなことを言っている。


つきこさんの怪しげなコーヒー牛乳も飲み終わる。


隆君の家はお母さんが有名なピアノの先生。お父さんは

英語が得意な方で、銀行勤務だったので、もしかして

読み聞かせはしてもらっても、昔話は他国の童話で

42歳でも、日本の昔話が面白いのかな。


ずいぶん前にもそんなことはあった。