僕をさみしくしないで・つきこさんと16歳年上の僕

1996年10月某日・朝食食って会社に行った佐粧隆


隆君は火を入れたおでんをさましたものを、

保存容器に全部持って行った。おやつらしい。

つまり今日も東京で仕事なのだな。


「つきこさん、今日もしかして会社のクリスマスの

音楽をやるメンバーのオーディション?」



僕はひでゆき。和菓子職人4代目は、今日休日。


つきこさんはつ、つ、つ、妻です。いまだに僕は

「言葉」には慣れないんだ。4年目なのに。

つきこさんは会社。



「そう。昼休みに。そこらへんの音楽教室の

先生が審査に来るらしいから、やだなー」



ギターに人が集まるらしく、ギターはあきらめた

みたい。上手なのに。ベースはなぜか人が少なく、

つきこさんは初心者教室でベースを習って、毎日

短時間でも練習。地味に努力するって可愛い。


素人の僕が音を聞いても、最近はかっこいい。


素人の僕。そういうとつきこさんに叱られる。


【プロと同じステージで、頼まれて何回も演奏した人が

何を言うんだろうなー。ひでゆきさん羨ましがられてる。

そんなこと外で言ったら刺されるよ】とまで怒る。


僕はギターを齧っているつもりだったのに、佐粧隆が

なぜか助っ人を頼みに来る。そう言えば衣装も何回も

着たかもしれない。でも和菓子職人だし。



「それより、他県に泊りで出張って今日わかるからね。

いずれにせよ休憩中に電話するね。もしもお買い物

していたら、留守電に入れておくね」


それ。


つきこさんが家にいないと僕はさみしくなっちゃう。

原因は【佐粧隆・ツアー中のAdalheidisのリーダー】だ。

専属のヘアメイクがいない。ツアーは基本的には

自分でやる。それが出来るのが佐粧隆。


ただし東京では「都内限定」で収録もコンサートも

つきこさんが佐粧隆係だ。ヘアもメイクも。

会社から「行って来なさい」と言われるのだ。


つきこさんがいるのは都内の某小さな化粧品会社。

「都内出張企画」というところにいる。



最初につきこさんが隆君と出会ったのはつきこさん

21歳の時、助手で行ったので、お菓子を切って出すとか

雑用だったみたい。隆君には彼女がいた。今考えると

おそろしいよ。キラキラしてる人だからな。

そのときの隆君の彼女、ありがとう。


次の月に22歳でつきこさんはこの家に来てくれた。

やっとでした。お互い清らかに7年待つ必要があったのは

僕の年齢が、まあ、なんとなく。


つきこさんは妻です。



本日、僕がのろのろとしたのは洗濯と風呂掃除、

最低限の食べ物をスーパーで買い出し。



つきこさんの会社では有志で、12月になると

クリスマスソングを即席バンドで演奏する。

数年前?いや、もっと最近?つきこさんはギターを

弾きたかったが、人数が多すぎたらしい。残念。


つきこさんはベースの当て振りをした。

そのときこっちもギター位には弾けたらいいなって

思ったんだって。



リーン・ベルベルベルベル


「はい、つきこさん?」

外の公衆電話みたいだ。


「まずオーディション。ギターになっちゃった」


「え?ベースは?ギター持って行ったっけ?」



「よくわからないんだけど、貸し出し用?のを

渡されて。音楽教室のあごひげにサングラスの講師

すごい審査が厳しかった。わたしの場合はベース失格」


意味が分からないよ。帰宅後に聞かなきゃ。



「あとは、出張が決まってしまいました。おそらくね

都内出張企画から、来年の4月は【出張企画部】って

名前が変わるらしくて。佐粧さんもね、4時間メイク

にかかって、疲れちゃったとか。4時間は変なのよ。

出張は11月中旬から、1週間らしいの」



どうしよう。

つきこさんが家にいない6日間、耐えられるのだろうか。



「帰ったら詳しくお話しするね。今日は美味しいお弁当

お土産にして帰るから、ゆっくり休んでね」


「どうもありがとう」


僕が今、何もできなくなっているの、知ってくれている。


何か薄味のおかずでも作るからね。