ただいま言えるところまで話します・つきこさんと16歳年上の僕

1995年11月28日(火)徳浜主任のつきこさん帰ってきた。


「つきこさん、クイズです」


「はい。大学受験までなら。大学入学後は無理です。

だってわたし、専門学校卒だもん」



今考えるとつきこさんは転勤もない、家から割と近い、良い

会社に入ったなと思う。都内出張の時は拘束時間長いときも

あるけれど、ちゃんと帰ってきてご飯食べるし。



「つきこさんの名字は何でしょう。1.中西 2.徳浜

3.佐粧 さて正解は?」



「秀行さん、あのねー、何か3番がおかしいよ。2番に決まって

るでしょう?もしかして役所に紙を届けていなかったとか!」


「大丈夫。今日母さんが隆君(佐粧)のこと褒めてて笑えたの。

旅行の土産の礼を言ったんだ。それとね、隆君がはんぺんとか

さつま揚げとか、魚のすり身をおやつに食べるとか話した」



「はんぺんね。佐粧社長、はんぺんで接待されたら断れないかも」


確かにその位好きみたいだ。


「それをうちの母さんが【ひでさんと違っておやつに魚のすり身で

偉い】って言うんだ。僕は洋菓子やジャムつけたパンや、クッキー

を食べる、まあ糖尿病に気をつけろってことらしいけれど」


「裏山の娘さんのお父さんだよね?たまにあの娘さんが電車に

乗っているの見るけれど、通学に1時間以上かかるの大変ね。

体力ないと疲れそう。でもせっかく親に入れてもらえたんだし」



つきこさんはその子の見た目のことは何も言わなかった。



「秀行さんが病気になったらわたしもだよ。同じもの美味しく

食べているから。だから信じてる」


「だから信じてる」は、僕の貧しい心に強く響いた。まるで

胸に5センチくらいの杭をうたれたみたいに。甘い飲み物やめて

麦茶にしようかしら。



つきこさんは今日の豚の生姜焼きを


「わーい、豚ステーキ」と言って喜んだ。疲れているみたいだね。



「今日は佐粧社長が来て、魚のすり身じゃないお菓子食べていたよ。

応接室の1番狭い部屋に行く前にね、都内企画受付給湯室からプリンと

紅茶と、寺井次長が買ってきた、生クリームと果物がたっぷりの

ロールケーキを佐粧さんが選んで、佐粧さんがお盆で運んだの」


何それー。つきこさんと同じ部署の皆さん慣れちゃったのかな?

勝手に冷蔵庫開けて?寺井君の秘蔵のおやつだったかもね。


紅茶をつきこさんが入れて、清水さんがケーキを切って【あれを

下さい】と言うプリンを冷蔵庫の奥から出したという。まるで物が

入っている場所を知っていたみたいだったらしい。



「佐粧さんだってみんなわかっているから、よその社長の不思議な姿を

平気で【あらどうも】って見てられるんだけれど、バイトの平君が毎回

どこかの怖い人だと思って悲鳴を上げそうになるから、小林さんがね

平君の口をふさぐの。あの人はお客様で社長さんだよ、って」


お客様で社長さんで、組織の幹部とかいそうじゃない?

それにしてもバイトさんには佐粧隆がKYOってわからないんだ。

少し老けて見せていても(服とかで)同じ顔なのにね。



「清水さんは今回5日間シークレットライブに入るのは無理って

言うから、新婚だからかなってみんな思っていたら、奥さんの

お母さんが何かで入院して手術するから、完全看護でも普通に

帰りたいって。奥さんは動物さんの赤ちゃんが生まれて大変なの」



ある意味それは新婚ということだろう。完全看護でも顔見せたり

奥さんの伝言伝えたり、買い物してきたり。清水さんなら奥さんに

夜食の差し入れに行くかもしれない。僕でもやると思うし。



「こっちは女性で入りたい人、希望者いたらいいなって思って。

男女リストを作っておいたのを今日佐粧さんと次長で決めたみたい。

事前に講習会もしますから、頑張りましょうって」



「その講習って、男性メイクと隆君のVメイク?寺井君が

先生をするんだね?」


「それがねー、雰囲気を知ってもらうってことで、わたしが。

どうせ寺井次長が佐粧さんを担当してバッチリなんだし。

全員で3人か4人いれば、どうにかなるってことで。佐粧さんの

コンサート、急に人が増えたりするから、油断できない」



あー、つきこさんお姉さんになったんだねー。先生か。

会社に行くと違う人になるんだねー。今もかっこいいけれど。

付け加えると、最近美人になってきた気がする。前は可愛かった。



「女性も2人リストに入れたのに、結局寺井次長と佐粧さんは

小林さん(男性)とわたしを選んじゃった。でも佐粧さんが

サングラス取って、わたし以外の女性陣にミニ花束差し入れ」



それはつきこさんが恨まれないようにだな。贔屓だと思う人は

絶対いるはずだよ。ひどく疲れる仕事なのにね。


「【またうちの社で何かある時はご一緒しましょうね。今回

癖のある人間が多いので、ドSの徳浜主任じゃないと可憐な

皆さんには少し手強いんです。またお邪魔しますね】だって」


「つきこさんドSなんかじゃないのに」


「でも部署では男前だって。女性に見えないのが勝ちな場所も

あるって、男女問わずこんにちはって平気で行けるってこと?」


何かよくわからないけれど、徳浜主任て男前なんですか?

癖のある人間て誰?


「秀行さん、癖のある人間て個性に置き換えたら、寺井次長に

佐粧リーダー、なさそうであるのが知神さん。わたしもかな。

女性はみんなうっとりしてた。KYOに花束貰ったのと一緒だもん」


「そうだね、隆君はウソはついていないね。用意の良さとか

手回しの良さが相変わらずいい意味で優男だな。この家だと

大きな3年生みたいに見えるけれど、外じゃ大人か」


「佐粧さんと寺井次長と考えたのは、やっぱり知神さんの

そばで平気で働ける人じゃないとダメだって。やっぱりねー

お得意様だから、知神さん情報はあるし大ファンは無理かも。

寺井次長はそういうの見てたのかもねー」


「僕は知神君の側にいても平気なつきこさんが誇らしいよ」


たまには言葉に出さないと。知神天使だよ、愛称。


「だって、秀行さんに会ったときの衝撃はあれ以降ないもん」


明日は焼肉に行こうか?僕が牛肉買ってきてステーキにする?


つきこさんは【わたしは秀行さんといたかったのに。5日間も

デルハ(Adalheidis)と一緒でクリスマスもないよー】と

ふにゃふにゃしていた。


イサさんとはまだ連絡がつかないと隆君が寺井君にブツブツ

こぼしていて、頭を叩かれていたらしい。