1995年11月3日(金)祝日・文化の日
今日は夕食は母さんと。父さんは商店街のクリスマスで
何をするかとか話し合いだって。
何でも子ども会と協力してお菓子を配るとかではなく、
今年は各店で何かをサービスとか。
昔は子供クリスマス会なんてあったらしい。つきこさんが小学生
の頃かな。僕、会社員時代だ。考えなかったことにしよう。
新聞紙やコップを使った手品の人や、サンタさんと撮影会とか。
そこら辺の小父さんじゃ子供が楽しむのは無理だって。
例えば両ひざに子供をのせて、写真を何回も撮るなんて
素人じゃ無理で、サンタさんはイベント会社に頼んでいたとか。
うちの店で買ってくれた「子供」に何か配るとか可能?
子供が1人で和菓子買いに来るかな?ようは商店街の同年代の
仲良しの小父さん達と、たまには居酒屋とか行きたいんだよ。
まずはつきこさんの実家に行こう。車で10分かからない道を
みつけた。こんなに近くに住んでいても悲しい思いをたくさん
したんだよね。だからもう嫌だと言われても離れてあげない。
「秀行さん、パスタなんて持って行かなくていいのに。
冷蔵庫に使いかけの竹輪が2本あるから、あれ持って行こうよ」
つきこさんてば、何を言っているのか僕はわからないよ。
「父さんはこの時期は毎年出張で、明日帰ってくるかな。
だから大丈夫。居間でお昼寝できるよ。そう祝日近辺」
僕はつきこさんのお父さん、別に苦手じゃないよ。
「つきこさん、お母さんに電話してみて、何か足りないものが
あったら、家から持って行くか買って行こうよ」
「昨日、秀行さんは自分のお母さんに【卵4個持って行く】とか。
なのに何でわたしの実家には気を使うの?電話借りるね」
電話借りるとか言わなくても、ここはつきこさんの家だよ。
「もしもし、これから行く。お土産は特にないけどお昼に
食べるものある?へえー。それはすごい。2人で行く。ああん。
怒らないでよ。ご馳走があるなら図書券あげるから。じゃあね」
「お母さん何だって?」
「はやくおいでって。お昼前でもいいよ。つきこは来なくても
いいよ、秀行さんはおいでだって。父は明日帰宅。兄は、いるって」
「図書券あるんだ?」
「【読書感想文にTRY】とか言う会社の変なイベントに昼休みに
適当に書いて出したら、しばらくしたらくれた。秀行さんの
お母さんの分もあるからね」
母さんの分は、まああげたら喜ぶか。どうもありがとう。
会社でそんなことするなんて、読書の習慣がない人が多いか
読書する暇もないのか。僕は感想文自体苦手で400字詰め原稿用紙
3枚でも(今は)ちょっと苦手。
「昼休みに何か書いてたら休憩できなかったでしょう?」
「家で書いたら覗きに来る人がいて、恥ずかしいもん。2日か3日に
分けて書いたから、原稿用紙5枚なんて大したことないもの」
「200字詰めの用紙?」
「ううん、400だよ」
「母さんただいまー」
「ただいまーじゃないでしょ。お兄さん達もういらしてるわよ。
おでんの具材をすべて持って来てくれたのよ。はんぺんなんか
たくさん頂いたんだから。つきこは餅巾着手伝って」
お兄さん達? は ん ぺ ん?
「母さん、わたしにお兄さんなんて素敵な生き物はいなかった」
「陽?あの子は塾に教えに行っちゃったのよ」
陽さん(みなみ)は11個下の義兄。医学部に学士編入して、今は
4年生。順調だ。そのうち身内から医師が出る。僕は嬉しい。
「陽兄ちゃんは、お兄さんとは呼ばない。お兄さん達って誰?」
「陽の部屋で少し寝てたのかな。疲れてるみたいで。もう1人は
ロールキャベツの材料持って来て、作ってくれた、天使」
「何で?」
「長男と3男だって言うから。お正月にも会ってるし。4男は
お仕事だって言うから。映画の撮り直しが出たんだって。つまりね
陽は5男なの」
「あ、秀行君。今顔洗ってきたよ。知神はつまようじ買いに行った。
ここの家の1つ、残り使っちゃったんだって。申し訳ないって」
「いいのにねえ。でもまさかあの子がね」
「知神君ですよね。まさかあの子って。あとで教えてください」
「僕も兄として知っておきたいです」
兄って言うの?社長で同じバンドのリーダーで?
とりあえず何で隆君と知神君がいるんだろう。今は午前11時半。
それはおいておいて、聞きたいことがある。
「隆君、どうやってこの家の中に入ったんだよ」
「まあ、お婿さんなら聞きたいよね。あとで話すよ。姫の
お母さんはピンポーンて鳴らしたら、すぐ入れてくれたんだよ。
昨日は僕は遅くまで写真焼いてて疲れたから、陽君の部屋で寝た」
「迷惑かけちゃダメだろう」
「新しいシーツとか毛布を用意してくれて。陽君が寝る場所だってね。
香りをつけるって。もう洗わないって。医師の卵がいいのかな?
それから塾に教えにいった。僕はシャワー浴びてきて良かったよ」
「ただいま戻りました。あ、秀行さんとつきこさん」
つまようじだけじゃない。ガーベラが3本。ピンクに黄色に濃い
鮮やかなピンク。お洒落だねー。
しかも、ちゃんと僕達の名前を呼んでいる。
ロールキャベツのいい匂い。はんぺん入れすぎのおでんの匂い。
さて、隆君がいる意味を知りたい。