ドラマ見ながらお話を聞く・つきこさんと16歳年上の僕

1995年10月23日(月)ドラマは安定してきた。


「ホッとした。今回も僕が目立たない役で良かったー」


「今回はね。次回はどうなるかわからないよ。編集で」


また怖いことを言う。このドラマは母の好きなドラマで、

商店街の皆さんも好きだということで、僕は顔出しOKなのだ。


しつこいけれどセリフはない。店長の右腕の美容師の役。


「今日は初めて僕が主人公の女優さんを席に案内したね。だけど

こんな服着ていたっけ?真っ黒なフリルとリボンタイのブラウスって

カットに邪魔じゃない?ジャケットも淡い茶系って言うよりもさー」



「クリームからオフホワイトでしたね。用意された物着たのでは?」


「姫の言うとおりだった。落ち着かない配色だったな。ステージ衣装

何回か着たの、早く映してほしいね。知神の青で無地のネルシャツは

綺麗だね。秀行君が同じネルシャツに黒のエプロンて何?兄弟なの?」



「制作班の衣装さんに着ろって言われただけだよ。同じ色を2人が

着ているって、案外この店の制服じゃないの?」


「あー、姫も同じネルシャツの上に黒のジャケット袖まくり。

ファスナーあげてたから気が付かなかった。僕だけ違ういじめだ」



違うでしょ。店長だけ華美な服が許されてる変なところでしょ。


芝居の設定はね。店長役は「隆君」が望んだ。宣伝になるから。



「僕が決めたわけじゃないけれど、オーナー店長の僕がそうしたのか。

23店舗、少しずつ色が違うとかかな。ありきたりでがっくり」


関東23店舗あると言うのは隆君の妄想、いや想像、架空の設定。

それだけ気合が入っているってことなのですが。



「姫はさ、ディレクター(どうやら僕のことらしい。肩書か?)

と、何を話していたの?」


「隆君、セリフなんてないでしょう。話しようがないだろう」



「秀行君、うなづいてた。それから2人でおんなじ懐中時計を見て

姫が軽く頭下げて秀行君が親指建ててた」


「ああ、懐中時計は支給品でしょ。腕時計つけられないし、首から

下げるのは揺れてお客様に当たるとダメだから」



「僕が支給したことになるんだね。まあそれはいいでしょう。

しかし、僕はつけた記憶がない」


「僕達従業員に聞けばいいじゃないか」



隆君は「ズルイ」とかそういう気持ちは全くないみたいなんだ。

ただ、あれ?と思ったことは納得するまで聞いてくる。


「じゃあ、手話でもない、セリフもないのに話しているように

見えた会話の内容は?どんなつもりか知りたい」



「えーと、あのときはお客様がいなかったから、お昼は何を

買って来ましょうかって聞いて回ってるつきこさんに、お握りと

サンドイッチ頼んで、夜は時間あるから夕飯食べに行こうって。

小声でね。それで、はいって言われたから、good!て親指たてた」


空想上の会話。もちろん声は出さないし大きくうつらないから

動きも適当なんだけれど。


つきこさんはどういうつもりだったんだろう。セリフないから

違うこと考えてたのは想像できるけれど、興味ある。



「まず、次回の徳浜先生の講習会に参加予定の人数を伝えて

【多いなあ、店長にもやらせよう】って言ってもらったと。そこで

お昼買いに行きますって言ったら【弁当持ってきたから大丈夫】と

親指でグッドのサインが出たんだなーなんて」


美容室に持って行くなら小さいサンドイッチたくさんかな。暇を

見て、1個ずつ食べるとか。暇がない日もありそうだ。



「やっぱり面白い。秀行君は職場恋愛の相手に姫を選んだ」


「え?先輩がご飯に連れて行くのも禁止?知らなかったよ。

隆君の店からは転職しようかな」


「姫のストーリーはまともだ。だけど秀行君は僕をこき使うね」


「つきこさんの脳内でだよ。色々想像しないと進まないでしょ。

セリフがないのに会話してるようにとか、素人にはヘビーだよ」


「職場恋愛は禁止じゃない。でもこの店舗は女性が姫しかいない。

失敗したら、もうこの僕がいる美容室では働けない位のダメージを

食らうと思う。やめておきなよ」


本当の話じゃないからいいもん。


「もう撮影は終わったんだから安心しようよ。今日も知神君と店長

ものすごく目立ってたよ。主役の俳優さんくすんでた」


「それはね、申し訳ないけど。俳優さんが頑張らなきゃ。来週から

俳優のファンが多いと10秒位しか僕達はうつらなくなる可能性がある」


僕は30秒だと思ってたから3分近く毎回自分がドラマの中にいて

赤面(していないけれど)する位恥ずかしい。10秒でいいよ。

でも、隆君は俳優さんより目立ってもまるで気にしていない。


「ねえ、お握りの残り貰っていい?」

「いいよ。紙袋に入れてあげる。いっぱいお土産ありがとう」


「仕事はしたけれど、お土産選ぶのも楽しかったよ。一応大家だから

ご近所で何かもらうこともあるし、不味くなくて量も多すぎないものを

選ぶと異国って、無垢のチョコレートになっちゃうんだよね。なぜか」



そういって僕の家に18粒位のチョコの箱を置いて隆君は帰った。



つきこさんが「今日はお土産をたくさんありがとうございました。

運転気をつけて帰って下さいね」と言うと、ニッコリして


「うん」


と言ってから帰宅した。


帰宅後、無事だと電話連絡があったのはもちろんです。


パスタで何を作ろうかな。明日の朝パンにチョコペースト塗ろう。