それでも家族だからかもしれない・つきこさんと16歳年上の僕

1995年10月23日(月)出張から帰国した隆君が家にいる。


小田巻蒸しは茶わん蒸しみたいなところはプリンみたいで

食べ応えがないから、食事にならないかなと思ったのだが。


茶わん蒸しぽくても中にあるうどんや、常備菜(キャベツの

サラダ、サツマイモの甘煮)で、お腹は結構膨れたみたい。



つきこさんが温かい麦茶を出す準備をしている隙に、僕は

仕返し、いやお返しのように、つきこさんの高3のときの

演劇発表会の写真を隆君に見せる。



「うわ、カラーの時代は凝ってるね。落窪物語か」


「この右近の少将、隆君の白雪姫の継母と基本は同じで

女子がやったんだって(つきこさんだけど)」



「綺麗な女子って美少年に化けやすいんだろ。この流れで

いくと、これは姫がやったとかそういう話になるの?」



「よくわかるね。やっぱりスカウトマンやっていただけあるね」


「目立ちたがりとか、歌手になりたいとか、他、スカウトのために

毎週、歩き回る子がいたね。今もいると思うけれど。その中には

本当に有名なところにスカウトされて、女優さんになれる子もいる」



確かに。毎週スカウトマンがいる場所を、一時期歩き回っていたという

つきこさんとものすごく仲の悪い従妹さんがいた。もう結婚したが。



「だけどある時期から噂を確かめに中学、高校に行くスカウトもいた。

理由は、この写真の姫みたいな子を探しに行くためだと思う。僕の

会社は不定期オーディションか音楽スクールチェックだけにした」



「はい、熱いですよ」


「ありがとう。秀行君が自慢したがり屋さんで右近の少将を見たよ」



「狩衣、あの木場はるこさんに借りたんです。男踊りで使ったとか」


「流派とか知らないけど、167㎝だと、女性役やりたくても相手役に

ならないといけないこともあるね。理由は色々あるけれど衣装の丈かな。

まずい、忘れるところだった。姫にまだお土産があるんだよ」



右近の少将の感想は?他の人にはお土産配らなくていいのかな?



「これね、秀行君が好きそうだと思って。パンに塗って食べて。

チョコって現地の人は言ってたし、絵もそうだし説明もまあね」


「2つも大きい瓶、もらっていいの?隆君のは?」



「ある。大丈夫だよ。日本のより大きいよね。あと姫にはね

姫の化粧ポーチに入れられる色の物を少し。どうぞ」


「いいのかなー。何かわたしばっかり」


「会社の給湯室にもチョコレート置くし。いいのいいの。

秀行君のチョコペーストの方が化粧品1つより高いんだよ」



え、そういう国なの?それは知らなかった。



「つきこさん良かったね。隆君、聞きにくいけど聞いていい?」


「僕は聞かれて困ることはないよ。特に秀行君ならね」


「栄美子さんの分はあるの?」


「ある。姫と同じの。リップカラーと、アイライナー、チーク、

アイシャドウ。姫のとは少し色が違う。日焼けしたからね」



妹さんの日焼け肌を覚えているのはわかる。つきこさんに

(合うかどうかは別として)似合うと思う色をプレゼントするって

結構じろじろ見ているってこと?


「ヒモ男が年齢の割に体が弱っているっていうことで、栄美子も

休みを取ってリハビリ見学したり食事を調べたり。僕はヒモ男が

入院中に2人を離すつもりだった。失敗しちゃったんだよ」



「何で?だって栄美子さんはお爺さんみたいになったヒモ男を見て

自分はまだ若いってやっと気が付いて、キレイな服や化粧品を隆君に

ねだったんでしょう?隆君はそれをかなえてあげたでしょう」


「かわいそうになったって手紙にあったよ。僕が持たせた財布は

入院治療費に使った分はいつかお返ししますって、残った現金を

現金書留で、財布を封筒で料金不足なく返して来た」



隆君の妹さんの栄美子さんはヒモ男と入籍して15年になる。

妹さんは35歳。ヒモ男は55歳から60歳の間だろう。

20歳から切り詰めた生活。裕福な家の娘さんだったのに。


「【素敵な人が音楽雑誌にのっていた、同じ35歳】って、僕はそれ

知神君だと思ったよ。栄美子さんが彼に憧れて外に出たらいいこと

あるかもしれないって僕は何の力もないけれど、こころから願っていた」



「どうもありがとう。予定の半分以下で医師と話し合って退院。費用は

きちんと払っていたし、病院から僕へ連絡がなくて。でもさ、こうやって

お土産買って来ちゃうのは、それでも家族だからかもしれない」


「次に連絡があった時、渡せば受け取ってくれるよ。何かあったら

お兄ちゃんがいるって思うと、栄美子さんは元気でいられるんだよ」



店長、ドラマ見ましょう。お握りもありますよ。

鮭と梅と、わかめふりかけのお握りです。



つきこさんがそう言うと、隆君は恥ずかしそうな顔から、怜悧な

美貌の、「美容室、オーナー店長」の顔になった。


これから始まるドラマの、隆君の役だ。



「もう1人の「妹」の美少女の時代を見られなくて残念だったな」


家族より僕達と一緒にいるよね。ただいまって帰ってくるんだし。

それつきこさんのことならば、隆君が見なくて良かったと思う。



僕が見ていたから大丈夫。制服に包まれて地味だったよ。