稽古場に「ひめ」が行く・つきこさんと16歳年上の僕

1995年10月15日(日)僕は仕事だからつきこさんは1人で。


早朝、つきこさんは食パンにクリームチーズと苺ジャムを

塗ったトースト、ハムと目玉焼きを乗せたトーストに

温かいアップルティーとトマトを切ったものを出してくれた。



「つきこさん、疲れてない?朝大丈夫かいつも心配なのに

僕が嬉しいから、ついつい無理させちゃうんだけれど」



「朝6時から仕事の方が大変だと思うし、一緒にいたい。

もう、ほぼ3年も朝食元気に食べてくれる秀行さんがね、

そうだ、9時に電車乗ってROSSKASTANIEだった」



「朝食元気に食べてくれる秀行さんがね、」何なんだろう。

何だかすごく気になる。今日はつきこさん1人で、何かと

戦いに行くんだね。帰りは迎えに行こう。



つきこは目覚ましをかけて少し休んでから、出かけました。



スニーカーに長袖Tシャツ、お腹がきつくないゴムのスカートに

パジャマのズボンを少し細くした様な物を持った。行くときの

服装は、ブルーグレーの会社用スーツ。下はスカート。


首にはリングホルダーのネックレス。結婚指輪を深いところへ。


その上には通行証。


なぜか通行証は3つある。白薔薇のマーラ、音楽スクール講師

初心者認定(E.ギター)、あと1つは佐粧さんがくれた通行証。

恐ろしいことに期限がない。秀行さんはもっと持っていそうだ。



「あ、おはよう。つきこちゃん今日は1人?」



なんでー。なんで知神さん朝からいるの?まだ10時少し前。

昨日のラジオ番組って夜遅いのに。録音?は1つか2つしても、

生放送は11時だったでしょう?眠り足りないとかないんだろうか?



「今日はお稽古に参加させていただけると言うことで、悪声を

少しはましにしたいと思っています」



知神さんは何だか首をかしげたみたいだけれど明るい声で



「ぼく、アコースティックギターで入るからね」



ガーン。今日はそういう仕事だったのか。



「おはようございます。よろしくお願いします」



「おいで。早かったね。寮生の3人だよ。この子は愛称は

ひめ。ギターは初心者認定を持っている。寮生はねこちらから

愛称で、みかん、モック、クマ。1日だけどひめと仲良くしてね」



「よろしくお願いします。なんでひめっていうの?」



みんな20歳位かな。元気だな。



「日向峰 めばえさんて言いにくくない?名字の上と下を

取って、ひめって言うんだよ」



佐粧さんが姫って言っちゃっても、おかしく思われない様にか。



軽く小さな笑い声が。アハハハハハハハハって聞こえる。

びっくりしたー。秀行さんかと思った。


知神さんだ。今日は白のつなぎ。お洗濯はしてあるけれど

お稽古にふさわしい。昔きっと着ていたのだ。



「知神君、弾いて。姫は歌って。歌詞はウソでもいいし知って

いたらそのとおり歌って。ハイ」



♪川の〇〇〇



「知神君、どんどん速度上げて」



「次はみかん。少し姿勢悪いよ。知神君に合わせて。知神君が

合わせちゃダメだよ」


知神さんなら歌がよろめいても何とかできちゃうんだ。速くなっても

遅くなっても余裕なんだね。すごいね。


「モックとクマはピアノの音で。ギターに惑わされないで。ハイ」



佐粧さんが綺麗なピアノの音を出す。1つの部屋に2つの音。


微妙にずれた同じ歌のメロディー。

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「というわけで、音楽が違うものに変わってもそういうのやってた」



僕が帰宅したらつきこさんがもう帰ってきて、台所、洗面所、トイレ

お風呂掃除を終えていた。シャワーも浴びてスエットだった。



「それさ、鬼だよね。知神君にとっても鬼。ひゅうがみね・めばえで

ひめとか隆君て、よっぽど徳浜とか、つきことか呼ぶの嫌なんだね」



「でも知神さんは相手に合わせられるんだよ。それも親切で。だけど

それをしたら佐粧さんが怒る。佐粧さんは指が20本あるみたいに速く

弾けるし、ボーカルの稽古ってすごいね」



「なんか、そんなの聞いたことないけれど難しい練習だね」



「グラジオラスのボーカルの人が辞めるから、寮の3人から選ぶらしくて

グラジオラスのマネージャーさんもいたし、小松崎さんの他にもプロの

コーラスの青井さんがいつの間にかいて、びっくりした」



「つきこさんは誰が上手いと思った?」



「みんな上手。さすがROSSKASTANIEオーディションで残った人だと

思った。みかんさんも、モックさんも、クマさんも誰が次のボーカルに

なってもおかしくないと思う」



「そのニックネーム、寮の研修生でつけるのかな?」



「少しお話したけれど、佐粧先生がつけたって。缶田だからみかん、

木川だからモック、久我昌枝だからクマなんだって。少なくとも

稽古のときだけはそうなんだって」



名前間違うよりいい先生に見えるかもしれないね。佐粧先生。



ところでつきこさんは何かつかめたのだろうか。



「今日はね、デビュー前なのにすごい人達がいて、その練習に

参加させてもらって、悩みがなくなっちゃった」



うそー。今日だけで?



「もうわたしは歌う必要ないなって。そう考えたら楽しくなった。

考えてみたらギターをもっと練習して、うまくなればいいんだよね」



そういう方向に行った?僕はカラオケでもつきこさんの声、歌は


聞きたいんだけれど。なんか違う結果になった様な。


ご飯、味噌汁、焼き魚、お漬物を食べる。


食後に温かい麦茶で、白いクッキー(まだあるよ)を食べていたら


電話が来た。リーン・ベルベルベルベル。



つきこさんは部屋に逃げた。


隆君からだ。