コンプレックスだった?つきこの声・つきこさんと16歳年上の僕

1995年10月14日(土)昼前に帰宅。


「知神君が入ってきたとき何か複雑だったな。

ラジオは夕方で何か他の用事があるついでみたいだった

けれど、つきこさんと接近してたんだもん。胸が痛かった」



「そんなことないよ。2人共ね、目線があっちこっちで全く

バラバラ。わたしも顔が見えないし、あれは知神さんとわたしの

接近じゃなくて、通りすがりで、ではさようなら、だと思うよ」



言われてみれば、白薔薇のカールが知神君だと知っている

女性は、知神君にベタベタする女性がいたら嫌だろう。



自分の物でもないのにファンの心理ってそうだもん。



だからこそつきこさん「と」知神君の写真には、僕は目眩が。

だって同じ名字だし、同じ家のつきこさんだし。



写真は別に目と目を合わせたりせず、他人が2人って感じだった。



そこらへんは写真家佐粧隆がこころえて撮っていると見た。

つきこさんに何かあったら大変だもの。



「佐粧さんはちゃんと出来たら見せてくれるって」



隆君はウソはつかないからね。ウソは。ウソは、ね。



帰りに買い出しして帰って来たけれど、つきこさんが

レモンと、すごく酸っぱい蜜柑をカートに入れたのが少し

気になった。もしや、ということはない。



「レモネード、少しハチミツ入れて作っていい?ほらわたし

カエルさんみたいな声でしょう?」



「え?誰かにそう言われたの?」



「みんな優しいから黙っていてくれるだけなの。さかのぼれば

高校の時だって、本当は生徒会じゃなくて放送委員会やりたくて

でもあんまりいい声じゃないし。声が良く通るとかお世辞言われて」



「お世辞で生徒会?別に放送委員会に入ればよかったのに」



「綺麗な声の子が数人立候補したからあきらめたんだー」



ホットレモネード。美味しいよ。声にいいのかな?


試食して酸っぱかったから、と買った蜜柑。これも美味しい。

みかんはね、甘ったるいのが嫌いなんだ、僕は。


喉が痛いときはちょっと刺激があるかな。



「えーと、そんなに魅力のない人の声を使ってROSSKASTANIEで

つきこさんの声の【白薔薇】シングル作ったと思う?仮にね

魅力がなくても、聞き苦しい声は佐粧隆は使わないと思うよ」



僕は【白薔薇】のシングルCDを部屋から持って来て、つきこさんの

前でかけた。佐粧、知神、僕、つきこさんが変装した第一期の白薔薇。

フランツリーダー、カール知神、Hardy(僕)、マーラ(つきこ)。



ROSSKASTANIE所属の女性バンド「カスミ草」が問題を起こして

急遽、泊まり込み合宿で僕とつきこさんの去年の5月の休みは潰れた。

が、その価値は十分にあるグループだった。



「つきこさんの声、可愛いし活舌もいいと思う」


「パンチングインとアウトでいいところつぎはぎじゃない?」


「元の声が変なら、いいところ拾っても変えようがないでしょう?」



「佐粧マジックでなんかしたとか。レコーディングエンジニアも

やるんだもん。なんか魔術じゃないの?」



これは、謙遜とかそういうのじゃない。思い込んじゃったのかも。

もしかしたら10年近く?耳が鋭敏すぎて自信がなくなったのかな。



心療内科とか精神科じゃない。頼れるのは、やっぱり佐粧隆か。



そろそろ執務室に戻る頃だ。邪魔にならない様にアドバイスを

もらおう。僕は直通にかける。



「ROSSKASTANIE佐粧。何だ秀行君か。今日はキャベツとピーマンと

ハムの焼きそばに、リンゴむいてくれたでしょう?食べた」



「それ、6人前だよ」



「おやつも夕食も食べようかと思ったら、知神がラジオの前に

食べたいって少し持って行った。たぶんこれで人間の食べる量に

近づいたかもね。でなあに?写真は今日中に現像する予定だよ」



「それがね、つきこさんに声のコンプレックスがあって。耳が

鋭いと、自分が音痴に聞こえたり、悪い声だと思っちゃうの?

専門家の意見が聞きたくって。忙しい時間にごめん」




「明日の午前中、姫に稽古場に1人で来てもらって。



寮にいる子達、3人に僕がピアノで稽古をつける。

小松崎とグラジオラスの女性マネージャーが立ち会うから

秀行君の変な心配はいらないよ。姫もそこに混ぜる。



夕方前には帰すから。疲れてなければ秀行君が仕事終了後に

迎えに来てあげれば?色々な子の声を聞くといいと思うよ」



つきこさんはお願いしますと言った。


少しでも自分を好きになってほしいから。僕もOKした。